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消耗する設計から、攻める設計へ

- 日本の製造業が早急に変革しなければならない理由 -

By 今泉 二郎

シニアコンサルタント

はじめに

「顧客の要求全てを可能な限り応えることが当社のモットーとするところです」

新しい業務の在り方を考え、変革を実行に移すことができないことに対する言い訳のように聞こえてしまうのは私だけでしょうか。大半のケースにおいて、すり合わせによる都度設計対応は付加価値の低い設計対応な上に、企業全体の体力を奪う行為となります。

なぜ今、変革が必要なのか

日本企業は長年にわたり、「顧客第一主義」や「きめ細かいカスタム対応」を競争力の源泉として磨いてきました。こうした姿勢は、かつて高い顧客満足と信頼を生み出し、事業成長を力強く牽引してきたことは間違いありません。

しかしながら、顧客ニーズの多様化対応に伴う、製品ライフサイクルの短命化とバリエーションの増加、これらに対応するためにサプライチェーンにおいてはコストとリードタイムにおいて大きな課題を抱えています。これらのように日本の高齢少子化に伴う労働人口の減少といった構造的な環境変化の中では、都度設計・都度開発を前提とした従来型のビジネスモデルは、もはや限界に近づいています。個別最適の積み重ねは、品 質・コスト・納期(QCD)にじわじわと悪影響を及ぼし、設計部門のボトルネック化や、調達・製造・サービス部門への手戻り・追加タスクの連鎖を引き起こします。結果として、エース人材が火消し対応に追われ、新製品開発や次の一手に十分な時間を割けないという悪循環に陥っているのが現状です。

加えて、日本市場は人口減少に伴い縮小傾向が続いており、企業が持続的に成長していくためには、グローバル市場での競争に打って出ることが不可欠です。ところが、言語の壁や文化の違いが存在する海外市場において、従来のように顧客と密にすり合わせながら、きめ細かいカスタム対応を行うことは現実的ではありません。むしろ、こうした対応はスピードやコストの面で競争力を損なう要因となり得ます。

このような国内外の環境変化に対応し、競争力を維持・強化していくためには、Engineer-to-Order(ETO)依存から、顧客要求をあらかじめ想定し、構成によって迅速に対応できるConfigure-to-Order(CTO)型のビジネスモデルへの抜本的な転換が不可欠です。

製造業における生産形態について:ETO/DTO/CTO

製造業の受注対応は大きく3つに整理できます。ETO(Engineer-to-Order)は、営業起点の仕様に予期せぬ要求や高い技術リスクが含まれ、案件ごとに開発が必要なスタイル。DTO(Design-to-Order)は、要求は予見・計画済みだが部品の設計や工業化が未完了で、残作業はあるものの技術リスクは低いスタイル。CTO(Configure-to-Order)は、要求が予見・計画内に収まり、対応する部品は全て設計・工業化済みで、開発ではなく“構成”によって短時間で成立させるスタイルです。

真のCTOを実現している企業の見極めポイントは明確です。

  1. 要求に合った製品構成が数秒〜数分で完了する
  2. 構成作業は設計者ではなくコンフィグレーター(仕組み)主導である
  3. 部分的な設計が発生しても大半のケースで製品全体の成立性評価は不要である
  4. 商品企画から量産に至るまでの開発情報が全てシステム管理されトレース可能
  5. 顧客要求に基づいたバリアント情報より市場要求の変化に対する柔軟な対応が可能
  6. 将来需要に対して計画的なバリアント開発が実施できている

今でも多くの企業が製品を既存部品を用いて構成する発想は持たれていますが、そこより更に前進しているのが真のCTO実現企業です。どの企業もAIをフル活用しようと躍起になっていますが、製品構成の自動化もできていない状態でどう活用するのでしょうか。このままではCTO企業との差は広がっていくばかりです。

なぜ日本企業はカスタム対応をやめられないのか

B2B市場では顧客要求が多様かつ高度で、しかも取引関係が長期にわたることが多いため、個別要求への対応が評価されやすい土壌があります。日本的な高品質・高サービス文化は、細部への配慮や作り込みに価値を置いてきました。その結果、「都度のカスタムこそが顧客志向」という思考が組織に強固に根付きやすいのです。

しかし、顧客が本当に求めているのは、投資対効果の高い価値ある製品です。重要度の低い要求にまで個別対応すると、かえって本当に価値のある部分への投資が薄まり、結果として顧客体験も企業収益も損なわれます。構成・価格・納期を即時に提示できるコンフィグレーターの活用は、顧客にその場で本当に必要な仕様だけを選択させることを促し、企業側の生産性と収益性を同時に高めます。

つまりCTO企業は、顧客と共に“その場で真に必要な仕様だけを選択”できることにより、不必要(付加価値の低い)な設計対応から回避できているのです。 

ETOがもたらすデメリット

ETOスタイルでは新図面の発生が常態化しがちです。新図は品質リスクを高め、調達・製造・工事・サービスといった周辺部門に新タスクを連鎖的に増やします。材料費は抑えたつもりでも、段取り替えや特殊購買、現場の手直し、サービス教育など“見えない間接コスト”が累積して収益性を圧迫します。加えて、設計の検証や全体成立性評価に時間が掛かるため、リードタイムも延びがちです。

結果として、社内の業務負荷は高まり、優秀な人材は重要案件の火消しに張り付き、新規開発や若手育成に手が回らなくなります。従業員の疲弊は組織全体へ広がっていき、最終的には離職につながりやすく、さらに現場の負荷が増す——負のスパイラルに陥ります。

図1バリエーション数の増加がもたらす複雑費と業務負荷の悪化図1:バリエーション数の増加がもたらす複雑費と業務負荷の悪化

標準仕様の限界と複雑性の罠

売れ筋を中心に標準仕様ラインナップを増やしても、市場要求の全体をカバーし切れないことは珍しくありません。結果として、標準の“外側”で都度設計が発生し、そこで生まれたバリエーションが十分に管理されないと、同じ要求に対して重複した設計が乱立します。これは品質問題の再発、部品点数・手配点数の増加、全体の成立性チェックの手戻りなど、複雑性の増幅を招きます。

図2標準仕様でカバーしきれない領域=都度設計が発生

図2:標準仕様でカバーしきれない領域=都度設計が発生

図3に示す赤枠のように、標準製品の対応範囲を超える要求が発生した場合には、必要な箇所について設計対応を行います。特に、モジュラー化が不十分な製品においては、設計変更が生じた時点で製品全体の成立性を再確認する必要があるため、設計者は再利用性よりも最適な設計を優先する傾向があります。このような設計対応によって生まれた部品や構成要素のナレッジは、以降の案件で再利用可能な形で蓄積・活用されることが望ましいですが、情報管理の方針や仕組みが整備されていない場合、標準範囲を超える要求には都度個別対応せざるを得ません。その結果、同様の要求であっても設計対応が繰り返され、似て非なる部品が不要に増加する事態を招きます。また、要求が標準製品の範疇であっても、複数の標準製品にまたがる場合には、構成製品全体の成立性確認が必要となります。

図3都度設計の積み上げが複雑性を増幅(重複・分断の例)

図3:都度設計の積み上げが複雑性を増幅(重複・分断の例)

解決策:正しいモジュラー化の実装と情報モデルの運用

CTOへの移行は、単なる“部品の再利用”の話ではなく、構成される製品の成立性が担保された製品アーキテクチャの適切な拡張と最適化を継続して行うことにあります。つまり、事業戦略、製品ラインアップのリリース計画に基づいて、必要なモジュールバリアントを適宜リリースできる“攻める設計”をすることで時間の経過とともに市場要求に対するカバレッジを拡大させていくことができるのです。更にカギとなるのはモジュラー化された製品アーキテクチャを厳密に運用するアーキテクチャ情報モデルです。どのモジュールで製品を構成するのか、各モジュールのインターフェイスや空間制約は何か、派生バリエーションはどこまでをカバーするのか——これらを一貫したルールで定義・管理しなければ、結局は案件ごとに全体成立性の再評価が必要となり、CTOは形骸化します。


図4.1 モジュラー化により構築される情報モデル図4.2 モジュラー化により構築される情報モデル図4.3 モジュラー化により構築される情報モデル

図4: モジュラー化により構築される情報モデル

次に重要なのは「市場カバレッジ」と「バリアント最適化」です。想定される要求範囲を過不足なくカバーしつつ、直接コストと複雑性コストの合計が最小になる“最適バリアント数”を見極める。過剰なラインナップは在庫・手配・教育コストを押し上げ、少なすぎるラインナップは都度設計を誘発します。適切な平衡点を見極め、情報モデルに反映し、運用プロセス(営業〜設計〜生産〜サービス)に落とし込むことが、真のCTOへの近道です。

図5バリアントの拡張と最適化により製品アーキテクチャが成長する様

図5:バリアントの拡張と最適化により製品アーキテクチャが成長する様

まとめ

ETO依存は、品質リスク、間接コストの増大、リードタイム長期化、人材の疲弊といった多面的な課題を引き起こします。これを構造的に解消するには、モジュラー化とアーキテクチャ情報モデルを基盤に、コンフィグレーター主導で価値を素早く届けるCTOへと移行することが不可欠です。

最初の一歩として、現状製品の構造・バリエーションの棚卸し、顧客要求の整理(セグメンテーションと重要度の再評価)、インターフェイスと成立性ルールの明文化をお勧めします。これらを情報モデルに落とし込み、構成・見積・納期提示を短時間で行える仕組みに接続することで、顧客満足と事業収益の両立が現実味を帯びます。

 

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